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ハイレゾ、CD、地デジ、音が一番いいのはどれ? ~海苔波形との闘い「キミのとなりで」編~ [検証可能な音質比較]

 TV放映版の別マスタリング音源を手がかりにしてハイレゾやCDの海苔波形と闘うこのシリーズ。今回は「安達としまむら」のエンディングテーマで、鬼頭明里の歌う「キミのとなりで」をとりあげます。
 アップテンポで爽快感があり、非常にポップに仕上がっているこの曲ですが、歌詞の方は作中の展開を反映してやや切な目の内容になっており、エンディングとして効果的に使われています。
 比較するのは以下の3音源になります。例によってサンプルを用意しましたので、聴き比べてみましょう。

1) ハイレゾ音源 (96kHz/24bit wav)
PCCG-01939
Kimino.jpg鬼頭明里 キミのとなりで 96kHz/24bit
mora
https://mora.jp/package/43000004/PCCG-01939_F/
e-onkyo
https://www.e-onkyo.com/music/album/pccg01939/


2) CD音源 (44.1kHz/16bit wav)
PCCG-01940
鬼頭明里 3rdシングル「キミのとなりで」[アニメ盤]

鬼頭明里 3rdシングル「キミのとなりで」[アニメ盤]

  • アーティスト: 鬼頭明里
  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 2020/10/28
  • メディア: CD

3) TV放送エアチェック (48kHz MPEG-2/AAC-LC 256kbps)
地デジ TBS
Kimino_EDcredit500x500.jpg安達としまむら 第1話 (2020/10/9)
https://www.tbs.co.jp/anime/adashima/


 まずは伝送帯域を確認してみます。1コーラス目のサビの頭、0分48秒付近のスペクトルを以下に掲載しました。帯域制限がわかりやすいように周波数軸はリニア表示にしています。

Kimino_Spectrum_HiRes.png
 ハイレゾは96kHz/24bitでの販売となっており、40kHzあたりまでちゃんと信号成分が出ていることが確認できます。fs=48kHzで収録された音源を96kHzにアップサンプルしただけの「ニセレゾ」も多く流通している中で、本物のハイレゾはありがたいです。ただ、筆者の耳はもう15kHz以上は聞こえなくなっていますので、正直ニセレゾでも問題ないのかもしれません。はたしてこの20kHz超に出ている成分が本物の楽曲成分なのか、はたまた波形クリップで発生した高調波成分なのか、聞いて確かめるすべのない筆者には判断がつきません。

Kimino_Spectrum_CD.png
 CD音源はマキシシングルのアニメ版 (PCCG-01940) です。高域はCD (44.1kHz/16bit) の限界いっぱいの21kHzまで出ています。

Kimino_Spectrum_TBS.png
 TVのオンエア音源はTBS地デジの本放送第1話の録画からとってきました。地デジの音声は AAC-LC 256kbps での圧縮となります。fs=48kHzですが、高域は18kHzまででスパッと切れています。地デジは放送局によって音声の伝送帯域上限が結構バラバラで、東京MXは20kHzまで出ていたりするのですが、TBSは18kHzどまりのようです。

 次に、各音源の1コーラス目の波形(L-ch のみ)を以下に示します。TV音声はヘッドルームが大きく空いており、最大音量でもフルスケールの半分くらいまでしか使われていませんので、TV音源だけはピーク値がフルスケールとなるように正規化を行っています。

Kimino_waveforms.png
 まずはハイレゾ音源ですが、残念ながら業界標準の (笑) 海苔波形です。ピークこそ -0.31 dBFS と寸止めしていますが、波形は完全に潰れています。平均音量は -9.78 dBFS です。
 CDもハイレゾと波形は全く同じです。音圧加工後の販売用マスタリング音源から、ダウンサンプルしただけのように見えます。平均音量は -9.69 dBFS で、ハイレゾと大差ありません。実は先に入手していたのはCDの方で、より高音質のソースを期待して後からハイレゾを購入したのですが、がっかりな結果に終わりました。
 一方、オンエアのTVサイズは音圧加工前の音源を使ってくれているようで、ピーク潰れのない自然な波形になっています。平均音量は -17.0 dBFS と、販売音源よりも実に 7dB も小さくなっています。0 dBFS に正規化したピークはイントロ 0分07秒のスネア一発目です。フルコーラス版とは明らかに別ミックスになっていて、ボーカル音圧に比べてイントロの音量がかなり大きいことがわかります。

 それでは、実際に音の違いを聴き比べてみましょう。サビの頭、0分48秒あたりから9秒ほどを切り出しました。ハイレゾとCDは 96kHz/24bit、44.1kHz/16bit のwav データをそのまま、地デジは AAC-LC 256kbps を 48kHz/24bit wav に変換してあります。ファイルの拡張子は .mp3 になっていますが、中身は全て非圧縮の .wav です。なお、そのまま聴き比べるには音圧が違いすぎますので、例によってボーカルの音圧が同じになるようにハイレゾと CD は音量を補正してあります。

鬼頭明里 「キミのとなりで」 ハイレゾ (96kHz/24bit wav 音量補正 -7.0dB)

鬼頭明里 「キミのとなりで」 CD (44.1kHz/16bit wav 音量補正 -7.0dB)

鬼頭明里 「キミのとなりで」 地デジ (AAC-LC 256kbps → 48kHz/24bit wav)

 いかがでしょうか? ハイレゾもCDもボーカルの歪み感はほぼありません。アニソンでは音割れを甘受してでも音圧を上げるケースが多々ありますが、本作はそこまで酷くなく、良心的?と言えるマスタリングになっていると思います。(これを良心的と思ってしまうあたり、受け手のこちらがだいぶ洗脳されてきていますね)
 ただ、やはり海苔波形の弊害は気になります。「一緒にいれ~ば~」の後ろ左側で鳴っているストリングスのビブラートのかかり具合に着目すると違いが分かりやすいでしょうか。テンポよく叩かれているスネアが、地デジはずっと中央から同じ大きさで聞こえますが、ハイレゾやCDは途中からどこかに行ってしまう感じです。地デジは海苔波形特有のボーカルが息をつく感じがなくて良いのですが、一方で圧縮による声のザラつきがやや気になります。手放しで地デジの方が良い、というわけにはいかないようです。
 ハイレゾとCDの音の違いですが、ブラインドテストされるとたぶん筆者には区別がつきません。そういった意味では、ハイレゾのために支払った差額は (少なくとも筆者にとっては) 無意味な出費になってしまいました。せっかく24bitのビット深度があるのですから、差額に見合った音質のソースが、当たり前に提供される時代が来てほしいですね。

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ハイレゾ音源、レーベル公式YouTube音源と、TV放送の音質を比較 [検証可能な音質比較]

 海苔波形化したCD音源よりも、TV番組をエアチェックした方が音質が良い場合があることはこのページでも以前にご紹介しましたが、ハイレゾ音源やレーベル公式YouTube音源の場合はどうなのでしょうか? 例によってサンプルを用意しましたので、聴き比べてみましょう。
 今回の試聴曲は「恋する小惑星(アステロイド)」のエンディングテーマで、鈴木みのりが歌う「夜空」です。

夜空(通常盤)

夜空(通常盤)

  • アーティスト: 鈴木みのり
  • 出版社/メーカー: フライングドッグ
  • 発売日: 2020/02/12
  • メディア: CD

Yozora_MX_curedit.jpg

 動画工房制作のこの作品、絵面に反して結構真面目な地学アニメになっていてびっくりです。エンディングはしっとりとしたバラードで、オンエアではラストの本編セリフにこの曲のイントロがかぶってくる演出になっています。
 比較するのは以下の3音源になります。

1) ハイレゾ音源 (48kHz wav 24bit)
mora https://mora.jp/package/43000005/VTCL-35311_F/
e-onkyo https://www.e-onkyo.com/music/album/veahd12216/

2) YouTube ビクター公式MV (48kHz Opus 128kbps)
鈴木みのり - 『夜空』(Short Ver.)
https://www.youtube.com/watch?v=Ct-zSVAldXc

3) TV放送エアチェック (48kHz MPEG-2 AAC-LC 256kbps)
東京MX 第1話 (2020/1/3)
https://s.mxtv.jp/anime/koiastv/

 まずは伝送帯域を確認してみましょう。1コーラス目のサビの途中、1分01秒付近のスペクトルを以下に掲載しました。3音源ともサンプリング周波数は48kHzで同じです。帯域制限がわかりやすいように周波数軸はリニア表示にしています。

Yozora_PSD_HiRes1.png
Yozora_PSD_YouTube1.png
Yozora_PSD_MX1.png

 ハイレゾ音源はそれほど高域を欲張らず、22kHzでロールオフしています。帯域的にはCDと大差ないのでハイレゾの旨味はあまりありませんが、そもそも筆者の耳には全く聞こえない帯域の話なので、ここは特に問題ありません。
 YouTube は Opus 128kbps での配信となっており、高域は20kHzまで出ています。Opus や AAC-LC といった最近のコーデックは 128kbps でも圧縮臭さがあまりなく、そこそこ HiFi 再生に耐え得る品質になっています。実際、かなり注意深く聴かないと圧縮前後の差はわからないと思います。
 TVのオンエア音源は東京MXの本放送第1話の録画からとってきました。こちらも高域は20kHzまで出ています。地デジは放送局によって音声の伝送帯域上限が結構バラバラなのですが、東京MXはかなり頑張ってくれています。音声は AAC-LC 256kbps のはずで、圧縮臭さはほとんど感じられません

 次に、各音源の1コーラス目の波形(L-ch のみ)を以下に示します。TV音声はヘッドルームが大きく空いており、最大音量でもフルスケールの半分くらいまでしか使われていませんので、TV音源だけはピーク値がフルスケールとなるように正規化を行っています。

Yozora_waveform5.png

 まずはハイレゾ音源ですが、残念ながらかなり海苔波形化してしまっており、サビでは完全にピークが潰れています。ハイレゾ販売ということで、多少なりとも高音質を期待して購入したのですが、いささかがっかりな波形です。平均音量は -12.0 dBFS です。
 YouTubeもハイレゾとほぼ同じ傾向で、同一マスタリング音源からの流用と思われます。平均音量も -12.6 dBFS とハイレゾと大差ありません。楽曲のプロモーションが目的なので当然なのかもしれませんが、ラウドネス規制が導入されてもなかなか状況は改善してくれませんね。
 一方、オンエアのTVサイズは音圧加工前の音源を使ってくれているようで、平均音量は -15.8 dBFS と 4dB 程度小さくなっています。サビのピーク潰れもその分少なく、わりと良心的な波形です。冒頭10秒の波形が他と異なっているのは、本編セリフが被ってることによるものです。

 それでは、実際に音の違いを聴き比べてみましょう。0分46秒あたりから15秒ほどを切り出しています。ハイレゾは 48kHz/24bit の wav ですので、他の音源も同じフォーマットに変換しました。ファイルの拡張子は .mp3 になっていますが、中身は全て非圧縮の .wav です。なお、そのまま聴き比べるには音圧が違いすぎますので、例によってボーカルの音圧が同じになるようにハイレゾと YouTube は音量を補正してあります。

鈴木みのり「夜空」 ハイレゾ (音量補正 -4.0dB)

鈴木みのり「夜空」 YouTube (音量補正 -4.0dB)

鈴木みのり「夜空」 TV (東京MX)

 いかがでしょうか? 一聴したところでは、ピークが潰されているはずのハイレゾのサビの部分も、それほど破綻なく聴こえます。ボーカルの歪み感も全くと言っていいほどありません。巧みなマスタリングだと思います。流して聞いている分にはまず違いはわからないのではないでしょうか。
 ただ、じっくり聴き込むとやはり不満な点が出てきます。「旅しよ〜」の「よ〜」がTVではクリアにボーカルが伸びてるんですが、ハイレゾやYouTubeでは息をついた感じになります。ドラムやベースの低域のアタック感もだいぶ違います。サビのボーカルの背後で鳴ってる音が、ハイレゾではごちゃっとして聞こえるのに対し、TVは分離よく聞こえます。これについては、右側で鳴っているハイハットに注目すると違いがわかりやすいと思います。YouTubeではさらに圧縮で音がザラつきますので、聴き分けは比較的容易です。

 以上、ハイレゾやYouTube音源とTV放送の音質を比較してみましたが、いかがだったでしょうか。せっかくの 24bit 深度のハイレゾも、この海苔波形では台無しです。これならCDの 16bit でも十分ですね。まがりなりにもハイレゾと称して高い値付けをしているわけですから、もう少しなんとかしてほしいと思います。

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ハイレゾは本当に高音質? ~交響組曲 宇宙戦艦ヤマト~ [検証可能な音質比較]

 最近はアナログ収録の往年の名盤がハイレゾでリリースされる例が増えてきました。アナログテープがマスター音源の場合、ハイレゾでの配信はいったいどの程度のご利益があるものなのでしょうか?
 今回は日本のアニメサントラ盤の原点とも言える「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」を例に、これを検証してみたいと思います。

 「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」は言わずと知れた宮川奏の作曲による劇伴のオーケストレーションで、オリジナルのLPレコードは 1977年12月25日の発売です。アニメーションがテレビ漫画と呼ばれていた当時、主題歌以外の劇伴が音楽集として発売されるなどということはまずありえませんでしたので、文字通りアニメBGM集のさきがけとなった一枚です。正確に言うと、このアルバムはいわゆるサウンドトラック盤ではありません。実は1974年放映のTVシリーズ「宇宙戦艦ヤマト」のオリジナルの劇伴はモノラルでの収録になっていて、確かにストリングスをフィーチャーした楽曲はありますが、どちらかというとビッグバンドのようなジャズテイストのアレンジがメインでした。1977年8月にTVシリーズを再編集した劇場版が公開され、ようやく知名度が全国区になるわけですが、本作はその人気を受けて劇伴を新たに大編成のオケ用に編曲し、ステレオで録り直した「イメージアルバム」という位置づけになります。
 その後、劇場版のビデオソフト化の際に音声のステレオ化が行われ、本アルバムの楽曲も逆輸入されて劇伴として使われることになりましたので、今では「サウンドトラック盤」と名乗るのもあながち間違いではないと思います。

CQ-7001 (1977/12/25)
LP
yamato_jacket_LP.jpg

yamato_LinerNotes.jpg

 LP封入のライナーノートには、オケのメンバ一覧に加えて、レコーディングに使った機材の抜粋が掲載されています。音質的に気を使ったアルバムにしてあるぞ、との強い自負を感じます。

 さて、この作品のデジタル音源ですが、現在までに異なるマスタリングの3種類のCDと、ハイレゾの音源がリリースされています。
 まずは1985年6月21日に初CD化された 32C35-7529です。このCDは10年後の 1995年に復刻され、COCC-12227 として再販されています。

32C35-7529 (1985/6/21) / 再販 COCC-12227 (1995/1/1)
CD
交響組曲 宇宙戦艦ヤマト Symphonic Suite Yamato

交響組曲 宇宙戦艦ヤマト Symphonic Suite Yamato

  • アーティスト: シンフォニック・オーケストラ・ヤマト,宮川泰
  • 出版社/メーカー: 日本コロムビア
  • 発売日: 1995/01/01
  • メディア: CD

 次が2004年に生誕30周年記念企画の「ETERNAL EDITION」として再マスタリングされた COCX-33021 です。TUNED-CD仕様で販売されました。

COCX-33021 (2004/11/25)
CD
生誕30周年記念 ETERNAL EDITION PREMIUM 宇宙戦艦ヤマト CD-BOX

生誕30周年記念 ETERNAL EDITION PREMIUM 宇宙戦艦ヤマト CD-BOX

  • アーティスト: シンフォニック・オーケストラ・ヤマト,宮川泰
  • 出版社/メーカー: コロムビアミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 2004/11/25
  • メディア: CD

 さらに2012年には「YAMATO SOUND ALMANAC」シリーズの第一弾として、オリジナルのアナログマスターを新たに24bit 96kHzでデジタル化して再マスタリングが行われ、高音質「ブルースペックCD」仕様で発売されました。このCDは現在も入手可能です。

COCX-37382 (2012/7/18)
CD
YAMATO SOUND ALMANAC 1977-I「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」

YAMATO SOUND ALMANAC 1977-I「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: 日本コロムビア
  • 発売日: 2012/07/18
  • メディア: CD

 この時にハイビットでデジタル化した音源を使い、2014年にはハイレゾ配信がリリースされています。

COKM-32741 (2014/8/6)
HiRes
yamato_jacket_HiRes.jpg 交響組曲 宇宙戦艦ヤマト【24bit/96kHz】
 mora
 https://mora.jp/package/43000013/COKM-32741_F/
 e-onkyo
 https://www.e-onkyo.com/music/album/cokm32741/



 これら3種類のCDのマスタリングの違い、およびハイレゾ音源のリリースの経緯については、

宇宙戦艦ヤマトハイレゾ配信:
吉田知弘(音響監督)&山下由美子(マスタリングエンジニア)対談
https://mora.jp/topics/interview/yamato_hires_talk/

で詳しく触れられています。
 この対談に限らず、web上のレビュー記事等を見ても、本作は再マスタリングするたびに音質が向上していると評価されています。が、どうもセールストークが多分に含まれているようで、筆者はあまり額面通りに受けとる気にはなれません。というのも、昨今の業界の音圧競争のあおりで、同じ音源であれば古いプレスのCDの方が音がいいケースがほとんどだからです。やはり実際に聴いてご自分の耳で判断されるのがいいかと思います。
 とは言え、オーディオレビューにありがちな主観表現を並べるだけでは「科学的かつ検証可能」を標榜する本ページの趣旨にあいませんので、なるべく客観的な根拠を挙げて音質比較をしていこうと思います。今回比較するのは、最初にCD化された 32C35-7529 (CD 1985年盤) と、最新の「YAMATO SOUND ALMANAC」(CD 2012年盤)、およびハイレゾ音源 (HiRes 2014年盤) の3者です。
 まずは波形を比較してみましょう。1曲目「序曲」の波形を以下に示します。

波形 (1.序曲)
yamato01_waveform_CD1985.pngCD 1985
最大音量: -1.1 dBFS (Peak)
平均音量: -25.0 dBFS (RMS)
DR: 23.9 (dB)

yamato01_waveform_CD2012.pngCD 2012
最大音量: -0.2 dBFS (Peak)
平均音量: -19.1 dBFS (RMS)
DR: 18.9 (dB)

yamato01_waveform_HiRes2014.pngHiRes 2014
最大音量: -0.1 dBFS (Peak)
平均音量: -21.1 dBFS (RMS)
DR: 21.0 (dB)


 先に挙げた対談記事にもあるように、初期のCDは「マスタリングらしいマスタリングは行われていない」ため、1985年盤はヘッドルームも十分に確保された愚直な波形になっています。おそらくこれがアナログマスターテープに入っている素の波形だと思われます。
 これに対して、2012年盤は平均音量 (RMS値) が実に+6dBもアップしており、Peak/RMS の比として定義した DR は 23.9 → 18.9 と5dB減少しています。ピークを潰して海苔波形化しているというよりは、音量の大きなパートはボリュームを下げて聴きやすくしている感じです。曲の後半、4分20秒付近からにラストにかけて直線的に音量が上がっていきますが、2012年盤は途中から音量の上がり方が緩やかになっています。
 ハイレゾの2014年盤も基本は同じようなマスタリングになっており、1985年盤に比べるとDRは3dB減少しています。先の対談には「(2012年盤は) 16bitのCDに収めるために弱音部を嵩上げしてDレンジを圧縮したが、ハイレゾはその必要がないので弱音での表現や余韻も充分に聴こえる」との説明がありますが、CD 2012年盤とハイレゾ2014年盤との平均音量差はわずか2dB (= 1/3 bit 相当) で、この説明にはかなりちぐはぐなものを感じます。せっかくの24bitのビット深度を有効に活用しているようには見えません。
 もう一曲、音量が小さめの曲ということで、木村好夫のガット・ギターと、外山滋のバイオリン・ソロが聴きどころの10曲目「回想」の波形を以下に示します。

波形 (10.回想)
yamato10_waveform_CD1985.pngCD 1985
最大音量: -8.5 dBFS (Peak)
平均音量: -32.0 dBFS (RMS)
DR: 23.5 (dB)

yamato10_waveform_CD2012.pngCD 2012
最大音量: -2.3 dBFS (Peak)
平均音量: -25.4 dBFS (RMS)
DR: 23.1 (dB)

yamato10_waveform_HiRes2014.pngHiRes 2014
最大音量: -2.7 dBFS (Peak)
平均音量: -26.9 dBFS (RMS)
DR: 24.1 (dB)


 この曲は最大音量がフルスケールにとどいていないので、あえてマスタリングでピークを潰す必要がなく、どの音源もDRは23dB前後で横並びになっています。音量の小さい1985年盤はピークでも -8.5dBFS ですので、16bit 中の上位 1bit は使われていないことになります。Dレンジが足りているか確かめるために、無音部分のノイズレベルを調べてみました。「回想」の0分24秒付近、冒頭のオケの導入が終わり、木村好夫のギター・ソロが入る直前の無音部分のスペクトルを次に示します。

ノイズスペクトル (10.回想 0分24秒付近)
yamato10_0m24s_log_CD1985DE_.png
yamato10_0m24s_log_CD2012_.png
yamato10_0m24s_log_HR2014_.png

 1985年盤はプリエンファシス入りですので、ディエンファシス後のスペクトルを掲載しています。16.2kHz に何かのクロックが飛び込んでいるのが見えますが、全体としてはほぼアナログテープのヒスノイズ形状を見ていることになります。ノイズレベルは -67.1 dBFS(RMS) ですので、ノイズの標準偏差 σ = 14.5 LSB となり、16bit 中の下位 4bit はほぼノイズしか入っていないことになります。正規分布するランダムノイズ波形の peak to peak はおおむね 6σ なので、波形で見ると約90 LSB の太さのノイズです。本アルバムの録音は STUDER A-80 によるノイズリダクション (Dolby or dbx) 無しの16トラックマルチ収録とのことですので、これを入れる箱としては CD の 16bit は十分過ぎる深さだと思います。
 2012年盤のノイズレベルは -61.5 dBFS(RMS) と 6dB 近く上がっており、σ = 27.6 LSB なので、下位5bit はほぼノイズで埋もれています。前掲の対談での「弱音部を嵩上げして bit 分解能を確保している」という説明に、いまひとつ説得力が感じられない所以です。スペクトルの形状は1985年盤と比べてややハイ上がりの傾向になっており、高域を持ち上げて分解能重視の音作りになっているのがわかります。1985年盤にあった 16.2kHz の飛び込みはきれいになくなっています。
 ハイレゾ盤は fs=96kHz ですので、48kHzまでの伝送帯域があります。20kHzを超えたあたりからノイズの PSD はダラ下がりになっており、収録に使ったアナログレコーダーの周波数特性がそのまま見えている感じです。スペクトルのバランスは 2012年盤CDと同様にややハイ上がりで、音作りの方針は2012年盤のマスタリングを踏襲していると思われます。ノイズレベルは -61.2 dBFS(RMS) と 2012年盤CDとほぼ同じですが、bit 深度が 24bit あるため、ノイズの σ = 7340 LSB となり、24bit 中の下位 12bit はノイズしか入っていません。波形で見たときのノイズ p-p は実に 40000 LSB もあります。これだけDレンジに余裕があるのに、2012年盤とさほど変わらない平均音圧にしてわざわざピークを潰しているわけですから、ハイレゾの器の無駄遣いにもほどがある気がします。

 さて、ハイレゾの利点は bit 深度の他にも可聴帯域外の高域伝送がありますので、楽器の倍音が多いパートで確認してみます。「回想」の1分47秒付近、外山滋の絞り出すようなバイオリン・ソロのスペクトルを比較してみました。倍音が等間隔でわかりやすいように、周波数軸はリニア表示にしています。

バイオリン・ソロのスペクトル (10.回想 1分47秒付近)
yamato10_1m47s_lin_CD1985DE_.png
yamato10_1m47s_lin_CD2012_.png
yamato10_1m47s_lin_HR2014_.png

 さすがにハイレゾ、20kHz より上まできちんと出ています。ソースに含まれる高域成分にもよりますが、この部分では 27kHz あたりまで倍音のピークが確認できます。1970年代の録音ですが、スタジオ用機材の性能は確かなものがあります。ただ、残念なことに筆者の耳がもう 15kHz 以上は聞こえなくなっていますので、せっかくのこのハイレゾの恩恵を全く体感できないのが悲しいところです。

 以上、ハイレゾ音源の音質について客観的なデータを元に検証してきましたが、肝心の音の違いはどうなのでしょうか? 本サイトの他の記事では音声ファイルを掲載しての聴き比べを積極的に行っていますが、今回は異なるサンプリング周波数の音源の比較となるため、あえて掲載はしていません。通常、web ブラウザからの再生ではOSのミキサーでリサンプリングされてしまいますし、たとえ排他モードでそのまま DAC に送れたとしても、DAC 自体の fs 違いによる個性込みの評価になります。加えて、本来はアナログで処理すべきディエンファシスをどうするかなど、再生環境に依存しない公平な比較はなかなかに困難です。言い換えると、そこに気を使わないとわからないくらいの微妙な違いしかありません。
 高域抑え目で聞きやすいバランスの1985年盤に対し、2012年盤はやや高域が硬めで、その分だけ個々の楽器の分解能が高く聞こえます。LPのライナーノートにあるように、タンノイのスタジオモニターで聴く分には高域抑え目の調整の方がよかったのかもしれません。ハイレゾ盤も基本的には2012年盤と同じ音の傾向です。2012年盤とハイレゾ盤をブラインドテストしたとして、筆者に聴き分けられるかは微妙です。1985年盤との聴き分けは比較的容易ですが、トーンコントロールで高域を同じように調整してしまうと、こちらも聴き分けられるかどうか、自信はいまひとつありません。
 本作のハイレゾはニセレゾではない本物のハイレゾなので、その点では大変ありがたいのですが、惜しむらくは 24bit のビット深度を生かしてもう少しDレンジを広く使っていただけたら、とちょっぴり残念に思います。

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CDよりレコードの方が高音質? ~冒険者たち/いつかどこかであなたに会った~ [検証可能な音質比較]

 オーディオの世界ではCDよりもアナログレコードの方が音がいいという、ある種の「信仰」のようなものが根強くありますが、果たして本当なのでしょうか?
 お題としてご紹介するのは、最近までCD化される機会に恵まれなかったレア盤「冒険者たち/いつかどこかであなたに会った」です。

 この曲はNHKアニメーション「太陽の子エステバン」の OP/ED 主題歌で、1982年6月にキングレコードからシングル盤が発売になっています。

K06S-3038 (1982)
冒険者たち/いつかどこかであなたに会った (17cmシングル盤)
作詞:阿久悠、作曲:大野克夫、歌:パル (PAL)

bouken_EPimage1.jpgbouken_EPimage2.jpgbouken_EPimage4.jpg

 「太陽の子エステバン」は1982年6月から約1年間にわたり放映されたスタジオぴえろ制作のSF冒険アニメで、中南米の古代遺跡を舞台とした冒険ファンタジーです。阿久悠の手による心にしみる歌詞と、大野克夫の美しいメロディによる主題歌は当時から人気の曲で、EDの「いつかどこかであなたに会った」はNHK「みんなのうた」でも放映されていました。
 歌っている「パル」は1977年結成のコーラスグループで、本曲のメインボーカルは2代目男性リード・ボーカルの新井正人がつとめています。残念ながら「パル」は本シングルがリリースされたその年 (1982年) に解散となり、ソロ歌手となった新井正人はその後1986年に「機動戦士ガンダムΖΖ」の主題歌「アニメじゃない」を歌うことになります。

 さて、このシングルレコードなのですが、プレスのロットが外れだったのか偏心が非常に大きく、45rpm = 1.3秒周期の線速度変化によるピッチ変動がかなり耳障りです。ドーナツ盤は中心円の遊びが大きく偏心が起きやすいのですが、この盤はどう置いても偏心を取りきることができませんでした。プレス自体の芯出しに問題があると思われます。
 そんなわけで、早くCD化されないものかと期待して待っていたのですが、キングレコードからは待てど暮らせど出る気配がありませんでした。「太陽の子エステバン」の楽曲は、この主題化シングルの他にも、挿入歌「黄金のコンドル/それぞれのユートピア」のシングルや、BGM集のLPが2枚発売されていましたが、いずれもCD化されることなく絶版となり、レア盤と化してしまいました。

 そんな中、2011年になると、キングレコードからではなく、なんと日本コロムビアの創立100周年記念企画「アニメソング史(ヒストリー) 」の第4弾オムニバスCDに、「冒険者たち」と「いつかどこかであなたに会った」の2曲が収録されて発売になりました。しかも、※高音質「ブルースペックCD」仕様とのふれこみです。

COCX-36948-9 (2011/09/28)
アニメソング史(ヒストリー) IV

アニメソング史(ヒストリー)IV

アニメソング史(ヒストリー)IV

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: 日本コロムビア
  • 発売日: 2011/09/28
  • メディア: CD

 ついにあの名曲が高音質で聴けると喜び勇んで再生してみたのですが、イントロを聴いた途端に「あれっ?」っと違和感に襲われました。確かにピッチは揺れずに安定しているのですが、
ドラムのアタックがまるっきりなくなっていて、スピード感がゼロ
なんです。
 百聞は一見 (聴) にしかず、聞き比べていただければと思います。17cmシングル盤は44.1kHz/16bitでサンプリングし、ピーク値がフルスケールとなるように音量を規格化してあります。CDの方は例によって音圧がアナログ盤と同じになるように -4.5dB の音量補正をかけてあります。なお、このページ内の音声ファイルの拡張子は.mp3になっていますが、中身は非圧縮の.wav (44.1kHz/16bit) です。

冒険者たち (17cmシングル盤)

冒険者たち (CD 音量補正 -4.5dB)

いかがでしょうか?
 アナログ盤は音作りがドンシャリだからそう感じるだけなのでは?とも思い、スペクトルを比較して見ました。イントロのドラムのところで、赤がCD、紫がアナログ盤です。

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 低域はどちらも同じだけ出ていますので、アナログ盤が特に低域をブーストしているようには見えません。また、高域はアナログ盤が15kHzあたりから上が急速に落ちていくのに対し、CDは20kHzまできっちり出ています。アナログレコードは20kHz以上の高域まで出ているので高音質だと言われていますが、上の wav ファイルは44.1kHzでサンプリングしていますので、CDと条件は同じです。そもそも、筆者の耳はもう15kHz以上は聞こえませんので、そんな超高域成分の有無がこのアタックの聞こえ方の差になっているわけではなさそうです。
 というわけで、次は波形を比較してみます。アナログ盤の波形と、-4.5dB の音量補正後のCDの波形を次に示します。

冒険者たち (17cmシングル盤)
bouken_waveform_EP.png

冒険者たち (CD 音量補正 -4.5dB)
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 2011年発売のこのCDは年代相応の音圧高めのマスタリングになっており、残念ながらだいぶ海苔波形化してしまっています。-4.5dB の音量補正で音圧が同じになるということは、4.5dB 分のピークを潰していることを意味します。アナログ盤に比べてアタック感が失われているのも、この海苔波形化が原因である疑いが濃厚です。マスタリングで音質を自ら落としているのを見ると、「高音質ブルースペックCD」の謳い文句が非常に虚しく感じます。

 CDよりもアナログレコードの方が音がいい例としてこの楽曲をご紹介しましたが、これは決してCDのフォーマットがアナログレコードよりも音質的に劣っていることを意味するわけではありません。
 ちょっと回路を組んだことのある人ならわかりますが、16bit (= 96dB) の 1 LSB をノイズに埋もれずに精度を出すのはものすごく大変です。CD の持つ 16bit のダイナミックレンジは実に広大で、60dBちょいのDレンジしかないアナログレコードが実用になっていた家庭用オーディオとしては、まさに余裕のフォーマットです。
 アナログレコードは偏心でピッチは揺れますし、溝を擦るノイズからは逃れられず、大振幅の高域の溝はその曲率を再生針がトレースできずにボーカルのサ行が歪みます。20kHz以上の高域成分が出ているといっても、20kHz手前の可聴域から大きく減衰していきますし、歪だらけでその忠実度はかなり疑問です。また、取り扱いがデリケートでちょっと油断するとホコリによるスクラッチノイズに悩まされ、再生するたびに溝が磨耗していきます。かようにアナログレコードは音質的には問題だらけのメディアでした。
 今回のようにアナログレコードの方がCDより音が良いケースは確かに存在するのですが、短絡思考でCDのフォーマットが悪いと決めつける前に、故意に音質を劣化させている海苔波形マスタリングをまずは疑うべきではないかと思います。

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CDよりTVの方が音がいい? ~海苔波形との闘い2「三つ葉の結びめ」編~ [検証可能な音質比較]

 TV放映版の別マスタリング音源を手がかりにしてCDの海苔波形と闘うこのシリーズ。第二弾は「凪のあすから」2クール目の ED で、やなぎなぎの歌う「三つ葉の結びめ」をとりあげます。

三つ葉の結びめ(通常盤)TVアニメ(凪のあすから)新エンディングテーマ

三つ葉の結びめ(通常盤)TVアニメ(凪のあすから)新エンディングテーマ

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル
  • 発売日: 2014/02/19
  • メディア: CD

 「凪のあすから」は P.A.WORKS オリジナルの海のファンタジーで、美術がとても綺麗な作品です。シリーズ構成は岡田麿里ですが、彼女の最高作といっても過言ではないと筆者などは思います。さて、物語後半の2クール目の ED がこの「三つ葉の結びめ」です。まずは CDの波形を見てみましょう。今回の音源はマキシシングルの通常盤 (GNCA-0326) です。

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 入りはスローのバラードなのですが、サビに向けて声量も上がっていきます。残念ながら声量が大きいパートはピークを潰してしまっており、海苔波形化しています。特に時間にして4分ちょうどのあたり、「なんども~」の「も~」は完全にボーカルが音割れしてビリついています。波形を拡大すると基本波の上下が同時にクリップしており、さすがにここまでくると誰でもわかるレベルの音質劣化ですね。

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「三つ葉の結びめ」CD 4:00付近

 ということで、海苔波形になる前の音源を求めて、TV放映時のエアチェックを確認します。東京MXでの本放送23話の録画から、サビの部分を切り出しました。本当は CD で音割れしている4分付近を比較できればよかったのですが、1コーラスのTVサイズに当該部分は入っていないのでいたし方ありません。波形を見ると、期待通りピークを潰す前の音源を使ってくれているようです。本放送当時、ちょうど東京MXが2波化して帯域が削られているのですが、スペクトルを見ると音声トラックは20kHzまで伝送されています。

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mitsuha_sabi_MX.png
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「三つ葉の結びめ」TV放映版 (東京MX)

 ここで比較試聴のため、CDから同じ部分を切り出しました。そのまま聞き比べるには音圧が違いすぎますので、例によってCDの方はレベルを調整してあります。今回の場合もCDの音量を5dB下げると聴感上のボーカルの音圧がほぼ同じになりました。

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「三つ葉の結びめ」CD (音量 -5dB)

 百聞は一見 (聴) にしかず。聞き比べてみましょう。いかがでしょうか?
 前回の「ウラオモテ・フォーチュン」編ほどには明確な違いが感じられないのではないでしょうか。やなぎなぎのボーカルも、この部分ではそんなに歪っぽくは聞こえません。「むすんで~」の所はかなりピークを潰しているはずなのですが、聴感上はほとんど歪は聴き取れません。多少クリップしていても気付かないものだなとちょっとがっかりしますが、そういった意味では、巧みなマスタリングだとも言えます。
 ただし、ある程度注意深く聴くと、やはり情報量の違いは見えてきます。ボーカルのクリアさで言うと、MXに対してCDは布一枚向こう側から聞こえる感じです。わかりやすい例としては、「むすんで~」の後ろで鳴っているピアノに注目してみて下さい。CDは音像がぼやけていろんな方向から聞こえてくるので、いったい何処でピアノが鳴っているのか気持ち悪いのですが、MXではちゃんと前方に定位してくれます。潰して無くなった部分の情報量の違いが、これらの微妙な聴こえ方の違いになって表れると考えると納得できる気がします。皆さんの印象はいかがでしょうか。

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アナログFM放送とネット配信「らじるらじる」の音質を比較 [検証可能な音質比較]

 本日のお題は、FM放送についてです。各局がサイマル配信を始めたデジタルのネット放送と、昔ながらのアナログ地上波を受信するのとでは、いったいどちらが良い音で聴けるのでしょうか?

 試聴曲として取り上げるのは、2018年3月31日放送の NHK-FM 「アニソンアカデミー」内でかかった、田中陽子「陽春のパッセージ」です。

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陽春のパッセージ

陽春のパッセージ

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 1990/04/25
  • メディア: CD

 なぜにこの曲が?と思われるかもしれませんが、たまたま放送に使われたCDが手元にあったことと、昨今の音圧競争に毒される以前の良質な音源であること、もうひとつは、詳しくは後述しますが、このCDに入っている録音上の軽微な不具合が、伝送品質を評価するのに都合がよかったからです。

 まずはCDの波形を見てみましょう。現代の海苔波形とは無縁の、実に良好なマスタリングです。ピーク値は -0.40 dB、平均音量 -17.68 dB です。90年代の初頭までは、CDの持つ16bitの広大なDレンジを生かすこのような高音質マスタリングが当たり前でした。スペクトルはイントロ終盤のボーカルが入る直前部分を切り出して表示しています。

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陽春のパッセージ (CD)

 さて、元音源の素性がわかったところで、FM放送の音質比較をしてみましょう。最初はアナログ地上波をエアチェックした素材です。東京スカイツリーから 82.5MHz で送信されている NHK-FM を、室内に設置した1/2波長ダイポールアンテナで受信しています。送信所からの距離は約15km、スカイツリーが目視で見通せます。マルチパスもそれほど気にならないレベルで、受信環境は比較的良好です。
 スペクトルは上のCDと同じくイントロ終わりの部分を切り出しました。FM放送なので当然15kHzで帯域制限がかかります。わずかに19kHzのパイロット漏れが見えます。今回使用した受信チップは Silicon Labs の Si4730 ですが、完全デジタルでL-R差信号のDSB復調を処理する効果は絶大で、ほとんど歪フリーのMPXステレオ復調が実現できる世の中になりました。しかもこの石、量産単価が500円ほどです。時報の880Hzトーンの歪率を実測すればわかりますが、往年の高級オーディオチューナーに大枚をはたいていたのが馬鹿らしくなります。
 肝心の音の方は、実際に聴いて確認してください。番組パーソナリティ (中川翔子) の曲紹介の声が大きく、送出側のリミッタにかかって波形ピークがクリップしていますので、このクリップレベルがフルスケールとなるようにファイルの音量を調整してあります。コンプレッサー等で音圧操作をしている形跡はなく、CDをほぼそのまま流してくれているようです。さすがはNHKですね。

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陽春のパッセージ (NHK-FM 東京 82.5MHz アナログ受信)

 次はNHKのネットサイマル配信の「らじる★らじる」から、NHK FM(東京) を radikool を使って無劣化で録音したものです。らじるらじるは HE-AAC 48kbps での配信となっており、radikool では ffmpeg の引数に -acodec copy オプションをつけることにより、ストリームを無変換でファイルに落とすことができます。48kbpsと非常に低レートですが、スペクトルを見ると17kHzまで出ています。アナログ放送と違いS/Nも抜群で、無音時は本当に静かです。この低レートでこれだけの音が出せるHE-AACのコーデック (と言うよりはNHKが使っているエンコーダですね) は実にたいしたものです。
 ただし、やはり限界もあります。圧縮音源特有のボーカルがシュルシュルいうのが耳につきますし、細かい音が失われています。今回の試聴曲のイントロではシンセが高音でリズムを刻んでるんですが、らじる★らじるではそれが全く聞こえずに妙なクリック音になってしまっています。百聞は一見(聴)にしかず、聞き比べていただければと思います。

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陽春のパッセージ (らじる★らじる HE-AAC 48kbps)

 それでは、ビットレートをどこまで上げればFM地上波と同程度の音が得られるのでしょうか? 参考までに、CD音源を iTunes でデフォルト設定のまま AAC-LC 128kbps に変換したものが次になります。スペクトルを見ると、こちらも高域は17kHzまででスパッと切れています。とはいえ、もともとiPhoneに入れて騒音下の屋外で聴く用途にそんな繊細な高域は必要ありませんし、なにより筆者の耳はもう15kHz以上は聞こえませんので全く問題ありません。mp3 の 128kbps は圧縮くささが耳につくのですが、この AAC-LC 128kbps はかなり自然な聞こえ方をしてくれます。ボーカルもシュルシュル言わずに透明感が保たれていますし、今回の試聴曲のイントロのシンセもちゃんと聞こえます。圧縮フォーマットの差もあるのでしょうが、iTunes に実装されているエンコーダが優秀なんだと思います。らじる★らじるもこのくらいのビットレートで配信してくれれば、筆者の環境でもFMチューナーは完全にお役御免となるでしょう。

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陽春のパッセージ ( iTunes AAC-LC 128kbps)


 さて、ここからはおまけですが、実はこのCD、イントロの入りの部分をスペクトルで見ると、15.7kHz の HSYNC が結構なレベル (-66dBほど) で混入しているのがわかります。おそらくスタジオ内のCRTディスプレイからの輻射を拾ってしまっているのだと思われます。

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陽春のパッセージ イントロ (CD)

 FM放送は帯域15kHzということになっていますが、このHSYNCはちゃんと見えています。レベルは -76dB なので、10dBほど減衰していることになります。NHKの送り出し側の帯域制限フィルタの肩特性がだいたいわかりますね。

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陽春のパッセージ イントロ (NHK-FM 東京 82.5MHz アナログ受信)

 しかし、らじる★らじるの HE-AAC 48kbps ではこの HSYNC が全く見えなくなります。高域は17kHzまで再現できているはずなのですが、マスキングで聞こえないと判断された鋭いスペクトルピークは、圧縮の過程で間引かれてしまっているようです。イントロのシンセの高音が消えてしまったのも同じ現象ですね。

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陽春のパッセージ イントロ (らじる★らじる HE-AAC 48kbps)

 一方、AAC-LC 128kbps ではこの HSYNC がバッチリ見えています。レベルもオリジナルのCDと変わりありません。音質の違いを検証可能なデータで見ることのできる面白い例だと思います。

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陽春のパッセージ イントロ ( iTunes AAC-LC 128kbps)

 以上、FM放送の音質について、なるべく検証可能な形で比較してきました。現時点では 48kbps のネット放送よりもアナログFM波を受信した方が良い音が得られる ということになります。

ただし、ここが重要なのですが、

 これはFMの受信環境に恵まれている場合に限り言えることです。弱電界ではS/Nが低下するのはもちろんなのですが、なによりちょっとマルチパスがあるとサ行が歪んで非常に耳障りになりますし、ピアノがじゅるじゅるいって聴けたものではなくなります。そんな環境ではたとえ 48kbps でもネット放送のほうがはるかにマシですね。筆者の環境でも送信所が東京タワーからスカイツリーに変わったことで NHK-FM の受信状態が改善し、音質が劇的に向上しました。
 よい電波が捕まえられる住環境かどうかは多分に運次第ですので、電波難民の救済という意味からも 128kbps、せめて 96kbps でのネット同時配信を期待したいところです。

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CDよりTVの方が音がいい? ~海苔波形との闘い「ウラオモテ・フォーチュン」編~ [検証可能な音質比較]

 アニメのOP/ED曲が気に入ったのでCDを買ってはみたものの、なんか音がいまいちで、オンエア時のTVサイズの方がもっとクリアな音だったような気がする。そんな経験ありませんか?

それ、あながち気のせいではないんです。

 典型例としてご紹介するのがこちら。「月間少女野崎くん」のエンディングテーマで、小澤亜李が歌う「ウラオモテ・フォーチュン」です。

TVアニメ「 月刊少女野崎くん 」エンディングテーマ「 ウラオモテ・フォーチュン 」

TVアニメ「 月刊少女野崎くん 」エンディングテーマ「 ウラオモテ・フォーチュン 」

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: メディアファクトリー
  • 発売日: 2014/08/27
  • メディア: CD

まずはCDの波形を見てみましょう。今回とりあげたのはマキシシングル (ZMCZ-9576) です。

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 音圧競争の成れの果ての、いわゆる海苔波形です。嘆かわしい話ですが、一介のアニメ主題歌にすぎない本作が、ここ20年ほどの業界の悪しき慣習から逃れられるはずもありません。

 一方、TV放送 (CS キッズステーション) の録画からとってきたEDの冒頭波形がこちらになります。

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TV放送 (CS キッズステーション)

 CD用にマスタリングする前の音源を使ってくれているようで、かなり良心的な波形になっています。本編の台詞の音量とバランスをとって、曲がうるさくならないようにミキシングすると自然とこうなるはずですね。CS放送は本来 fs=48kHz での配信ですが、ここではCDにあわせて fs=44.1kHz にリサンプリングしています。番組によっては音声トラックが15kHzくらいに帯域制限されて放送されているものもありますが、スペクトルを確認すると20kHzまで出ています。

 ここで比較試聴のため、CDから冒頭の同じ部分を切り出しました。そのまま聞き比べるには音圧が違いすぎますので、CDの方はレベルを調整してあります。今回の場合、CDの音量を5dB下げると聴感上のボーカルの音圧がほぼ同じになりました。
uraomote_CD-5dB_waveforms_AC.png
CD (音量補正 -5dB)

 百聞は一見 (聴) にしかず。聞き比べてみましょう。なお、このページ内の音声ファイルの拡張子は.mp3になっていますが、中身は非圧縮の.wav (44.1kHz/16bit) です。
 一聴してお分かりの通り、CDでは小澤亜李のせっかくの透明ボーカルがかなり歪んでしまっており、声の抜けの違いが一目瞭然です。また、ボーカルの背後で小さく鳴っている音に注目すると、いかに情報量が落ちているかがわかります。これでは、せっかく買ったCDの音にがっかりするのも無理ないですね。

 今回は典型例としてこの曲を取り上げましたが、もちろん全てのケースでオンエア版の方がCDより音が良いわけではありません。音圧加工済みの海苔音源を、レベルを下げて使っているだけの番組の方がむしろ多いです。とはいえ、TVサイズ版はフルコーラスのCDとは別ミックスになるのが普通ですので、少しでも海苔波形から逃れたい場合は、TVのエアチェックに期待してみるのもひとつの手かもしれません。

海苔波形との闘い 第二弾はこちら
 CDよりTVの方が音がいい? ~海苔波形との闘い2「三つ葉の結びめ」編~

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 ハイレゾ音源、レーベル公式YouTube音源と、TV放送の音質を比較
 ハイレゾ、CD、地デジ、音が一番いいのはどれ? ~海苔波形との闘い「キミのとなりで」編~

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