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CDよりレコードの方が高音質? ~冒険者たち/いつかどこかであなたに会った~ [検証可能な音質比較]

 オーディオの世界ではCDよりもアナログレコードの方が音がいいという、ある種の「信仰」のようなものが根強くありますが、果たして本当なのでしょうか?
 お題としてご紹介するのは、最近までCD化される機会に恵まれなかったレア盤「冒険者たち/いつかどこかであなたに会った」です。

 この曲はNHKアニメーション「太陽の子エステバン」の OP/ED 主題歌で、1982年6月にキングレコードからシングル盤が発売になっています。

K06S-3038 (1982)
冒険者たち/いつかどこかであなたに会った (17cmシングル盤)
作詞:阿久悠、作曲:大野克夫、歌:パル (PAL)

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 「太陽の子エステバン」は1982年6月から約1年間にわたり放映されたスタジオぴえろ制作のSF冒険アニメで、中南米の古代遺跡を舞台とした冒険ファンタジーです。阿久悠の手による心にしみる歌詞と、大野克夫の美しいメロディによる主題歌は当時から人気の曲で、EDの「いつかどこかであなたに会った」はNHK「みんなのうた」でも放映されていました。
 歌っている「パル」は1977年結成のコーラスグループで、本曲のメインボーカルは2代目男性リード・ボーカルの新井正人がつとめています。残念ながら「パル」は本シングルがリリースされたその年 (1982年) に解散となり、ソロ歌手となった新井正人はその後1986年に「機動戦士ガンダムΖΖ」の主題歌「アニメじゃない」を歌うことになります。

 さて、このシングルレコードなのですが、プレスのロットが外れだったのか偏心が非常に大きく、45rpm = 1.3秒周期の線速度変化によるピッチ変動がかなり耳障りです。ドーナツ盤は中心円の遊びが大きく偏心が起きやすいのですが、この盤はどう置いても偏心を取りきることができませんでした。プレス自体の芯出しに問題があると思われます。
 そんなわけで、早くCD化されないものかと期待して待っていたのですが、キングレコードからは待てど暮らせど出る気配がありませんでした。「太陽の子エステバン」の楽曲は、この主題化シングルの他にも、挿入歌「黄金のコンドル/それぞれのユートピア」のシングルや、BGM集のLPが2枚発売されていましたが、いずれもCD化されることなく絶版となり、レア盤と化してしまいました。

 そんな中、2011年になると、キングレコードからではなく、なんと日本コロムビアの創立100周年記念企画「アニメソング史(ヒストリー) 」の第4弾オムニバスCDに、「冒険者たち」と「いつかどこかであなたに会った」の2曲が収録されて発売になりました。しかも、※高音質「ブルースペックCD」仕様とのふれこみです。

COCX-36948-9 (2011/09/28)
アニメソング史(ヒストリー) IV

アニメソング史(ヒストリー)IV

アニメソング史(ヒストリー)IV

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: 日本コロムビア
  • 発売日: 2011/09/28
  • メディア: CD

 ついにあの名曲が高音質で聴けると喜び勇んで再生してみたのですが、イントロを聴いた途端に「あれっ?」っと違和感に襲われました。確かにピッチは揺れずに安定しているのですが、
ドラムのアタックがまるっきりなくなっていて、スピード感がゼロ
なんです。
 百聞は一見 (聴) にしかず、聞き比べていただければと思います。17cmシングル盤は44.1kHz/16bitでサンプリングし、ピーク値がフルスケールとなるように音量を規格化してあります。CDの方は例によって音圧がアナログ盤と同じになるように -4.5dB の音量補正をかけてあります。なお、このページ内の音声ファイルの拡張子は.mp3になっていますが、中身は非圧縮の.wav (44.1kHz/16bit) です。

冒険者たち (17cmシングル盤)

冒険者たち (CD 音量補正 -4.5dB)

いかがでしょうか?
 アナログ盤は音作りがドンシャリだからそう感じるだけなのでは?とも思い、スペクトルを比較して見ました。イントロのドラムのところで、赤がCD、紫がアナログ盤です。

bouken_CD_EP_dft.png

 低域はどちらも同じだけ出ていますので、アナログ盤が特に低域をブーストしているようには見えません。また、高域はアナログ盤が15kHzあたりから上が急速に落ちていくのに対し、CDは20kHzまできっちり出ています。アナログレコードは20kHz以上の高域まで出ているので高音質だと言われていますが、上の wav ファイルは44.1kHzでサンプリングしていますので、CDと条件は同じです。そもそも、筆者の耳はもう15kHz以上は聞こえませんので、そんな超高域成分の有無がこのアタックの聞こえ方の差になっているわけではなさそうです。
 というわけで、次は波形を比較してみます。アナログ盤の波形と、-4.5dB の音量補正後のCDの波形を次に示します。

冒険者たち (17cmシングル盤)
bouken_waveform_EP.png

冒険者たち (CD 音量補正 -4.5dB)
bouken_waveform_CD-4.5dB.png

 2011年発売のこのCDは年代相応の音圧高めのマスタリングになっており、残念ながらだいぶ海苔波形化してしまっています。-4.5dB の音量補正で音圧が同じになるということは、4.5dB 分のピークを潰していることを意味します。アナログ盤に比べてアタック感が失われているのも、この海苔波形化が原因である疑いが濃厚です。マスタリングで音質を自ら落としているのを見ると、「高音質ブルースペックCD」の謳い文句が非常に虚しく感じます。

 CDよりもアナログレコードの方が音がいい例としてこの楽曲をご紹介しましたが、これは決してCDのフォーマットがアナログレコードよりも音質的に劣っていることを意味するわけではありません。
 ちょっと回路を組んだことのある人ならわかりますが、16bit (= 96dB) の 1 LSB をノイズに埋もれずに精度を出すのはものすごく大変です。CD の持つ 16bit のダイナミックレンジは実に広大で、60dBちょいのDレンジしかないアナログレコードが実用になっていた家庭用オーディオとしては、まさに余裕のフォーマットです。
 アナログレコードは偏心でピッチは揺れますし、溝を擦るノイズからは逃れられず、大振幅の高域の溝はその曲率を再生針がトレースできずにボーカルのサ行が歪みます。20kHz以上の高域成分が出ているといっても、20kHz手前の可聴域から大きく減衰していきますし、歪だらけでその忠実度はかなり疑問です。また、取り扱いがデリケートでちょっと油断するとホコリによるスクラッチノイズに悩まされ、再生するたびに溝が磨耗していきます。かようにアナログレコードは音質的には問題だらけのメディアでした。
 今回のようにアナログレコードの方がCDより音が良いケースは確かに存在するのですが、短絡思考でCDのフォーマットが悪いと決めつける前に、故意に音質を劣化させている海苔波形マスタリングをまずは疑うべきではないかと思います。

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